最後の Flash Professional

先日の発表によれば、Flash Professional と名の付くツールは2015 年 6 月に公開された現行バージョンが最後となります。来年早々に予定されている次のアップデートからは別の名称 (Adobe Animate) に変わります。

新しい名前の良し悪しは別として、「名は体を表す」 のことわざに従うならば、今回の変更は理解できないものではありません。池田さんの今年の MAX レポート記事にもあるように、Flash Pro は 「もはや Flash 制作のためだけのツールではない」ものとして使われるようになっています。これからは、「Flash Pro は HTML コンテンツもつくれます」 の代わりに、「Adobe Animate はFlash コンテンツも HTML コンテンツもつくれます」 と言えるわけです。ツールの説明としては後者の方が素直です。

加えて、今回の発表は、アドビが今後もインタラクティブなアニメーション制作ツールの開発に注力するであろうことを示唆するものです。既存ユーザーにとって、これは良い知らせでしょう。しかし、Flash Pro の後継としてのAdobe Animate が、単なるツールに留まらず、再び文化的に特異な場所をクリエイターに提供できる存在になるような発表ということでもなさそうです。残念ながら、もう既に期待するだけ無駄な状況なのかもしれませんが。

スマートフォンの登場とツールの位置付けの変容

かつて Flash の魅力といえば、表現力の高いコンテンツを作成して、パブリッシュすれば、世界中のデスクトップに配信できるという点にありました。個人のクリエイティビティをこれほど簡単に発信できた時代はなかったでしょう。その高い普及率から、Flash Player は大規模な映像配信サービスの標準プラットフォームとしても使われるようになりました。

ところがスマートフォンの登場によってこの前提が変わります。iOS デバイスには Flash Player が搭載されないことが確定し、Flash はもはや 「どこでも実行できる」 コンテンツにはなれません。対応策として、2013 年の冬、Flash Pro に HTML5 Canvas 用のアニメーションをパブリッシュする機能が追加されました。Canvas を使うコンテンツならば殆どのブラウザー上で実行可能です。今では Flash Pro の制作物の 1/3 が HTML コンテンツといった話も頷けます。Canvas に続いて、WebGL サポートの追加も行われました。

また、2014 年秋には Flash Pro からのパブリッシュに使われる API が SDK としてサードパーティーに公開されました。これにより、アドビがサポートしていない環境に向けて、コンテンツを独自フォーマットで書き出すプラグインの開発が可能になりました。現在、「Snap.svg」、「GAF」、「OpenFL」、「AwayJS」 といった様々なサードパーティー製のプラグインが存在します。

このようにして、スマートフォン時代の Flash Pro は「もはや Flash 制作のためだけのツールではない」ツールへゆっくりと変化してきました。

64-bit 化の壁

ところで、同次期に、Flash Pro はもうひとつ大きな課題を抱えていました。2013 年 6 月リリース時のツールの 64-bit 化がもたらした影響への対応です。

ツールの設計からやり直した 64-bit の Flash Pro は、開発が追い付かず (2 年以上かけたそうですが)、32-bit 版からいくつも機能が省略された製品として公開されました。また、リリース後には重大なバグも含めて相当な数のバグが発見されたそうです。

この状況で製品チームはバグの修正を優先する決断を下しています。そのため機能追加も使い勝手の改善も少しずつしか進まない、外から見ると Flash Pro チームはあまりやる気がないようにも感じられた時期が 1 年以上続きました。最終的にバグ修正が完了したのは 2014 年の秋頃だそうです。製品チームとしては歯痒い時期だったことでしょう。

そして 2014 年の終盤からようやく本格的に機能追加が始まり、まず 2015 年 6 月のアップデートで最も要望が多かったらしいボーンツールが復活しました。64-bit 化に伴い省略された主要な機能は、単純に開発工数の問題だけでなく、より良い仕様を検討したかったために実装を見送ったものが多いのだそうです。ボーンツールも更なる機能強化を前提とした実装になっているそうで、今後が楽しみです。

来年 1 月公開予定のアップデートに関しては、ブラシツールやペンツールの強化、360 度回転可能なカンバス、オニオンスキンのカラー表示など、使い勝手の向上が予告されています。OAM ファイルのパブリッシュが可能になるため、Edge Animate の代わりに InDesign や Dreamweaver で使うコンテンツを作成することも可能になりそうです。

Edge Animate の始まりと終わり

アドビと HTML アニメーションと言えば、Edge Animate も忘れるわけにはいきません。世間で HTML5 神話が広がり始めた頃、HTML アニメーション専用ツールとして発表されたのが Edge Animate (発表時の名称は Edge)でした。この時点では、アニメーションツールの品揃えを増やすことで、ユーザーを取り巻く環境の変化に対応しようと考えていたのでしょう。ゆくゆくは Flash Pro に代わる主力製品に、くらいの目論見もあったかもしれません。

しかし、製品公開から 3 年を経て、Edge Animate の開発終了がアナウンスされることとなりました (今後はセキュリティ対応とバグ修正のみ)。Flash Pro に HTML コンテンツ制作にも実績ができたこと、そして Edge Animate が DOM アニメーションのツールであったことが大きな理由になったと推測されます。

これまでの経験から DOM に対する操作は遅い、60 fps のアニメーション目的の利用は無理、が確定事項として語られるようになりました。だとすれば Edge Animate は滑らかな動きが要求されない要件専用のツールです。一方、60 fps の HTMLアニメーションの唯一の選択肢となりそうな Canvas へは、既に Flash Pro が対応しています。この状況において Edge Animate 新規開発中止、サポートのみ継続、アニメーション作成ツールは Animate CC に一本化、という判断も止むを得ないところでしょう。

一方、今後の HTML アニメーション制作を一手に引き受けることになった Flash Pro 改め Animate も、Canvas アニメーション関連の新しい状況への対応は急務でしょう。Meteor そして React への周囲からのサポートには興味深いものがありますし、実現されているパフォーマンスは一段上です。コミュニティと協業するか、それとも競争するか。次の一手は Flash Pro もとい Animate の今後に大きな影響を与えることになるかもしれません。

Animate CC 以降への期待

Flash Pro から Animate への名称変更は、

  1. 製品の原点であるインタラクティブなアニメーションへの回帰
  2. マルチプラットフォームに対応したパブリッシュ機能 (Flash Player, AIR, HTML5 Canvas, WebGL、カスタムプラットフォーム SDK によるサードパーティーの実行環境)

が示されたものと理解してよいでしょう。特に 2 番目は、Flash Pro からの変更を積極的に後押しする理由だったことが容易に想像できます。しかし、Animate のマルチプラットフォームでは、Flash と WebGL 以外、コンテンツの価値はサードパーティーの実行環境に左右されます。

制作環境から実行環境まで、ワークフロー全てを一企業が提供することは、Flash 利用者にとっての大きなそして固有のメリットでした。もしかすると、そろそろ新しい実行環境に手を付けても良い頃なのかもしれません。例えば、Canvas と JavaScript の組み合わせなら、これまでいろんな検証が積み重ねられています。それが Adobe Animate Player という名前であろうが、CreateJS としてアーキテクチャーを刷新したものであろうが、Animate の行く先が Flash の生まれ変わりと呼べるものになるかはその点にかかっているだろうというのが個人的な感覚です。

Web から Flash コンテンツが減っているとしても、Flash コンテンツ的なものの有用性までなくなっていたりはしないでしょう。多くの Web アニメーションライブラリの存在、シンプル一辺倒になった Web デザインへの批判等はそれを裏付けるものです。アドビにはこの分野で責任のある立場に再び立つ気持ちが残っているでしょうか。

 

トラックバック(0)

トラックバックURL: http://cuaoar.jp/mt5/mt-tb.cgi/530

コメントする

2015年12月

Sun Mon Tue Wed Thu Fri Sat
    1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31    
レンタルサーバー

月別 アーカイブ

Powered by Movable Type 5.2.11